この手術を受けていわゆる分離脳になると、てんかんのほうはよくなっても、奇妙な行動が見られるようになる。
つまりそこから、脳梁の役割を探ることができる(生まれてまもない乳児だと、脳の適応力が驚くほど強いので、てんかんや腫傷の治療として左右どちらかの脳を丸ごと切除することもあるが、それでもほとんど障害が出ない。
たとえば左脳を切除しても、残った右脳が言語機能を引きうけて発達させる。
しかし年齢が上がると、この離れわざは見られなくなる)。
分離脳では、左右の脳は手つかずのままだが、それらをつなぐ脳梁が切断されている。
神経科学者のR・SとM・Zは、古典的な実験で分離脳患者の奇妙な行動を調べてみた。
たとえば、真ん中を仕切った画面の前に患者を座らせて、患者の左目は画面の左半分、右目は右半分しか見えないようにする。
たとえば画面の左半分にスプーンの映像を一瞬出せば、患者はそれを左目だけで見ることになる。
左目は右脳につながっているのだが、右脳には言葉でものを特定する領域がほとんどない。
そのため患者は、何も見えなかったと答えるだろう。
目に入った対象を名前で呼ぶことができないために、脳は何も見なかったと判断するのだ。
ところが、患者から直接見えないようテーブルの下にいろいろなものを置いて、そのなかからいま見たものを左手(やはり右脳が制御する)で取ってくださいと指示すると、おもしろいことが起こる。
患者はかならずスプーンを選ぶのだ。
右脳はスプーンをスプーンと呼ぶことはできないが、その形は認識していた。
形は手で触ればわかるから、テーブルの下からスプーンを取ることができた。
分離脳患者は、服の着脱に両手を使わない。
脱ぐときが右手なら、着るときは左手といったように片手でやろうとする。
またおもしろそうな本を手に取っても、言葉を解さないほうの脳が、本をただもっていてもつまらないと判断するので、すぐに置いてしまう。
つまり脳の両側を結ぶ脳梁がないと、脳内部の連絡は行きあたりばったりになるのだ。
Uで見たコンピュータグラフィックスによると、思春期の脳は、言語領域である左右のウェルニッケ野がまだ脳梁で完全に結ばれていないらしい。
それはどういうことなのだろう?この疑問を説明してくれるのが、若手研究者のP・TとE・Sの研究だ。
少年の面影を残す黒髪のTは、イギリスのリーズ出身で、オックスフォード大学でラテン語とギリシャ語を学び、その後数学で博士号を取った。
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